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第7話

霧島弥生は仕方なく「雨に濡れただけで、大したことないわ」と答えた。

そう言って、彼女は昨日の業務報告書を机の上に置いて行った。

「これは昨日の業務のまとめを整理したものよ。私は仕事があるから、これで失礼するわ」

霧島弥生は江口奈々を見た。江口奈々はすぐに笑顔を浮かべた。

霧島弥生が出て行った後、宮崎瑛介は眉を一層顰めた。

「瑛介くん?」

江口奈々の呼び声に、彼はやっと我に返った。

宮崎瑛介のその様子を見て、江口奈々は不思議に思ったが、それでも優しく配慮深く声をかけた。「弥生、調子が良くないようね。彼女は今、瑛介くんの秘書をしているけど、破綻する前は霧島家のお嬢様だったのよ。あまり厳しくしないでね」

厳しく扱う?

宮崎瑛介は心の中で笑った。あのお嬢さんを厳しく扱えるのか?

しかし、彼はそれを言わなかった。ただ、「うん」と応えただけだった。

霧島弥生は頭が重いと感じながら、自分のオフィスに戻った。

座った途端、思わず机にうつむいた。

さらに目眩がした。

どれくらい経ったのかわからないが、大田理優の声が聞こえた。

「弥生さん、やはり帰って休んだらどうですか」

霧島弥生は本当に元気を出せなく、とても苦しくて小さな声で「理優、ちょっとっ横になりたい」と言った。

そう言って、霧島弥生は深い眠りの中に落ちた。

霧島弥生は夢を見た。

夢の中で、彼女は18歳のあの日に戻った。

あの日は霧島弥生と宮崎瑛介の成人式だった。

両家は成人式を一緒に行った。当時の霧島弥生は、自分が好きな青いドレスを着て、パーマをかけ、ネイルをして、その日に宮崎瑛介に告白しようと思っていた。

彼女は長い間宮崎瑛介を探して、彼を小庭園で見つけた。

彼女はスカートをつかんで近づこうと思っていたが、宮崎の友達のからかう声を耳にした。

「瑛介、もう成人したんだから、好きな女の子がいたら婚約も考えなきゃなあ」

「霧島もいいんじゃない。いつも瑛介の後をついて回っているじゃないか」

霧島弥生はそれを聞いて、本能的に足を止めて、宮崎瑛介の答えを聞いてみたかった。

なにしろ、彼の答えは彼女が次にすることにも大きな影響を与えるだろうから。

しかし、宮崎瑛介が答えられる前に、誰かが先に言った。「霧島はだめだ。瑛介は彼女を妹のようにしか見ていないって知っているだろう。瑛介の心には一人しかいない。それは奈々だ」

奈々……

霧島弥生はひそかに宮崎瑛介の顔をうかがった。

夜の中の少年は石の椅子に座り、長い足をたたんでいた。彼は鋭い顔に薄く笑みを浮かべ、否定をしなかった。

「確かに、奈々の方が優しくて魅力的で、女らしいよな。霧島はただの小娘って感じ。何より、奈々は瑛介の命の恩人だ」

この言葉を言ったのは弘次で、宮崎瑛介の最も親しい友達の一人であり、普段は霧島弥生をからかうのが好きで、彼女に会うたびに、彼女の髪を引っ張るのだった。

彼は霧島弥生が最も嫌いな人でもある。

誰が小娘よ!

「そうだ、奈々は瑛介の命を救ったんだ。あの時、川の流れが激しかった。彼女が飛び込まなかったら、今ここに瑛介はいなかっただろう」

少年は頷いて、珍しくはっきりと「うん」と答えた。

彼の顔色は月の光の下で白く見える。「俺の心の中で一番大事な人は、永遠に彼女だ」

ドゥンー

霧島弥生の顔には血の気が一瞬にして消え、青ざめてしまう。

まだ告白もしてないのに失恋してしまうとは、彼女は思いもよらなかった。

江口奈々が宮崎瑛介の命を救ったことは、非常に有名な美談だった。

昔は英雄が美人を救ったが、今は優しい美人が美少年を救った。それが、江口奈々と宮崎瑛介のことだ。

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